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失敗恐怖

 失敗の許されない大きなプレッシャーのかかる場面。皆さまも経験されたことがあるのではないでしょうか?スピーチやプレゼン、試験など、上手くやらなければならない場面はたくさんありますね。私は趣味でクラシックギターを弾くのですが、人前での演奏はとても緊張するものです。

 

 「上手くやらなくてはいけない」、「失敗してはいけない」。この思いが強くなればなるほどプレッシャーは増していきます。そしてこのプレッシャーがピークに達すると、失敗することに対して恐怖を感じ始めます。こうなってはもう良いことはないです。

 

 しかし世の中には、このようなプレッシャーをポジティブなエネルギーに変換できる人もいます。いわゆる本番に強い人ですね。このような人は、プレッシャーを問題視する必要はありません。もしかするとそのプレッシャーを自然に適切な温度にコントロールすることができているのかもしれませんね。

 

 また、プレッシャーを感じても、それに上手く対処できるという人もいます。きっとその方法は人それぞれ違ったもので、その人には上手くいくのに、別の人には上手くいかないなど、それらの方法には「自分にはこのやり方がいい」などといった相性のようなものがあるのかもしれません。プレッシャーを感じても、それと上手く付き合うことができれば、これも問題視する必要はありませんね。

 

 問題視する必要があるのは、プレッシャーに上手く対処できない人ですね。極度にプレッシャーを感じると、呼吸が浅くなったり、手がふるえたり、頭が真っ白になってしまうこともあったりします。こうなってしまうと辛いです。そのような状態で自分が納得のいく結果を手にすることは至難の業です。事前練習など懸命に努力されてきた方にとっては、全てが水の泡になってしまったと感じられることもあるでしょう。

 

 先ほど私は人前でのギター演奏の場面でプレッシャーを感じるとお話しました。ちなみに私の主な症状は手のふるえです。弦楽器の演奏で手のふるえはキツイです。何にもできなくなります。私は長年、このプレッシャーによる手のふるえに悩まされてきました。なので、日々の努力が水の泡になってしまったときの辛さは良く理解しております。自分のイメージしていたことができない悔しさ、情けなさ、そして手のふるえを人に見られてしまったことの恥ずかしさ。言葉では言い表せないくらいの辛さがありますね。でもそんな症状も幾分軽減されてきているんですよ。

 

 結局のところ、失敗恐怖の改善は「失敗してしまう可能性があることを受け入れる」ということが肝になるのだと思います。「絶対に失敗してはならない」と頑なになってしまうと、結果として自分に強烈なプレッシャーを与えることになります。しかもその要求は現実的ではないですよね。絶対に失敗しないなんて無茶な話なのです。

 

 もちろん先ほどお伝えした通り、プレッシャーを上手くコントロールすることで自らを鼓舞し、素晴らしいパフォーマンスを発揮できる人もたしかにいます。しかしそうはいかずに、「絶対に失敗してはならない」と信じた結果が自分にとって良くないものであり続けている人は、その考えを少しだけ修正するべきなのではないかと思います。

 

 よくあるのが、「失敗したくはないが、失敗することだってあるだろう」という考えを持つことへの拒絶です。これは熱心に頑張る方ほど多いように思います。例えば楽器演奏者が「そんなぬるい考えでステージに立つのは失礼だ!」と反発することもあるでしょうし、スポーツ選手が「勝ちたいとは思うけど、負けることだってあるだろう」だなんて言葉に抵抗しても無理はありません。

 

 でも、ひとつ考えてみてください。「絶対に失敗してはならない」を信じた結果は、いつもどうであったか?もし大抵の場合その結果が良いものであったと思えるのなら、それは上手くいっている証であり、問題視すべきものではありません。一方で、もしその結果が大抵の場合良くないものであったとしたならば、「絶対に失敗してはならない」の考えを少しだけ修正することが役に立つと思います。

 

 演奏者がぬるい考えでステージに立つのは確かに失礼なことかもしれませんが、結果として今まで以上に良い演奏ができるのだとしたらどうでしょう?そのぬるい考え(私はそれがぬるい考えだとは思いませんが)を持つことで、自身のパフォーマンスをこれまで以上に向上させることができるのだとしたら、少し考えも変わってくるのではないでしょうか?

 

 そもそも無理なんです。「絶対失敗してはならない」なんて。その考えは現実的ではないんです。成功も失敗も受け入れることができる柔軟で現実的な考え方を持つことは、全然ぬるい考え方ではありません。しかし、実際のところは、なかなかすぐにそんな柔軟な考え方を信じることはできないのかもしれません。私自身がそうでしたから。結局は自分がそれに納得する必要があるんですよね。

 

 

 なお、先ほどの「絶対に勝たなくてはならない」の件ですが、私が考えるに、万が一勝てなかったときの自分がどうであるかということがポイントなのだと思います。ひどく落ち込んで感情を惑乱させてしまうのか、あるいはしっかりと反省したのちに気持ちを速やかに切り替えて「よし、今日の結果は受け入れて、次の試合に気持ちを集中しよう」と思うことができるのか。前者の場合に、気分の落ち込みがしばらく続き、自分で自分を疲弊させ、時間を浪費して、後日練習に集中して取り組めないなどの状態に陥ってしまうのだとしたら、考え方を今よりも柔軟にする必要があると言えると思います。きっと次の試合で更に「絶対に勝たなくてはならない」のプレッシャーは大きくなってしまうでしょうから。

 

 でもこれって実際は「絶対に勝たなくてはならない」ではなくて、「絶対に負けてはならない」だったりするんですよね。それゆえの失敗恐怖なんです。